梅花16才、初めてのひと

深セン市の街ほど、喧噪もなく、東莞市ほど、ネオンもない。

ここ布吉鎮にある三流の酒店
「ホテル エンペラー」のカラオケに、
年のこ頃は、二十七才か二十八才の、
梅花と言う小姐、お嬢がいる。
当然この様なお店の女の子、娼婦だ。 

なぜか、この梅花は片言だが、色んな国の言葉が話せる。
接待で外国人などを連れてくるのには都合が良い。

今回も、台湾人と日本人、アメリカ人の取引先の接待で、このお店を使った。
台湾人と日本人には片言の日本語が話せる十七才くらいの女の子を付けた。
アメリカ人には、英語も少し話せる梅花をつける。

接待を初めて、二時間ぐらいすると、
出来上がった台湾人と日本人はお持ち帰りをすると言い始めたので、交渉をする。 

台湾人に付けた子は600元でOKしたので、問題は無かったが、
日本人に付けた子が、運悪く、「大姨(女馬)来了。おばさんが来ていた(生理中)。」で、
持ち帰りが出来ないとのこと、仕方がないので、
若そうな女の子に声を掛け、無理やり日本人に押し付ける。
普通話しかできないが、800元なら良いとのことで、
やることは国が違っても一緒、まぁ、何とかなるだろう。


アメリカ人はあまり乗り気ではない様で、何時までも、話をしている。 

時折、アメリカ人は “Oh my God!” と言い、続きを聞いている。
どうも梅花は自分の生い立ちを話しているようだ。
このようなお店の女だ、誇張も多いだろう、嘘も多いだろう、
しかし、アメリカ人の顧客は喜んでいるようなので、そのままにしておいた。
三時間が過ぎた頃、話が終わった様で、
アメリカ人はチップの300元を梅花に渡し、満足そうに部屋へ戻って行った。

残された梅花は、今夜の入金の当てが外れ、
一晩600元で良いから買わないかと、持ち掛けてきた。 

身の上話が気になったので、寝ないかもしれないが、いいかと言うと、
じゃぁ、500元でいいという。



部屋について、約束の500元とチップで300元を払う。

一緒にシャワーを浴びると、そこかしこに小さな傷がある。
指で傷を指そうとすると、恥ずかしそうに傷を隠すが、
ちいさな乳房と、こんもりした下腹部は隠さない。
肌に触ったせいか、少しその気になったが、
明日も朝が早い、顧客より遅くまでは寝てられない。

ベットに横になると、裸のまま、するりと滑り込んでくる。 
十七才の若い体と違い、柔らかい。

で? と聞くと、一呼吸おいて、話始めた。

話す吐息も柔らかい。

3才の時、親に張と言う人買いに売られ、
靴磨きや、乞食をして稼いでいたら、
5才の時に、おばばと言われる湖南省の大物に拾われ、
薬草や言葉を教えてくれて、ほかにも生きるすべを教わり、
おばばの為に働けと教えられた。

12才になり生理が来ると、男のだまし方も教わり、
組織での生活も命がけになり、気が付くと、16才。


もう一人で仕事が出来ると言われ、
中国政府高官の亮と言う男のところに転がり込み、
亮の上司、河と言う男に取り入るのが目的。
河はせこい男らしく、接待以外では女も買わないので、
なかなか取り込めない。
ある日、亮から紹介されて、酒の席に着いた。
この時、初めて河に会う事が出来た。
この時以外にチャンスはない。
トイレに行く河の出てくるのを待ち、
もう一度、トイレに連れ込み、口で口をふさいだ。 

どぶ川の匂いだ。 

髪の毛の中に隠し持っていた針を首筋から脳に向けて刺す。 
どぶ川の匂いが一瞬にして鉄さびの匂いになる。


梅花16才、初めて殺した男はろくでもない中国高官。
そうっと、トイレに座らせて、スキップしたい心を抑え込んで、
亮の元に戻り、食事を続ける。

何事もなく、食事を続けていると、騒ぎが始まる。
気が付いた亮は私の手を取り、自宅に逃げて帰る。
その日はおとなしく亮の元で過ごす。

翌日、血の付いた手袋などを庭で燃やし、証拠を消去する。
去り際に、亮の喉を掻っ切って、軽く手を振りおばばのところへ戻る。


そんな生活を、もう何年続けただろう。 

今日で多分、最後。
毎回、そう思う。


そう、梅花がつぶやくと、
薄い刃物が喉に当たるのを感じる。 

ほんとうは、最後に寝たかったんだけど、
あなたが寝ないと言ったので、これでお終い。
え? 理由?
多分、おばばの嫌がるブツを輸入しようとしたからじゃないの?

残念、最後にしたかったわね。
私の体は褒めらることが多いのよ。 

そう言って、すでに息のしていない唇に軽くキスをして
梅花は、何事もなかったように、ホテルの部屋を後にする。 



中国は湖南省のおばばこと、哥老会の重鎮である白龍。
その白龍の秘蔵子で唯一、名前が知れている刺し姫、梅花。

また、一つチャイナドレスの裏に梅の花の刺繍が増える。

その数、三十八。

いつの間にか、
年齢より梅の花の方が多くなってしまったことをぼんやりと考えた。
一つ一つに物語があるのかもしれない。


翌日には、いつもの様に、カラオケのお店で体を売る、梅花がいた。 


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これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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